応急処置の、第一の目的は命を救うことです。
そして第二に動物を危険から遠ざけ、痛みや苦痛を和らげてやり、病気や怪我の進行を止め、危機的状況にある動物を回復方向に向かわせることです。そして飼い主としてやらなければならない重要なことがもう一つ。 それは状況把握して、どこでどうしてどうなったのかまた、生命の危険を示す兆候が無い かどうかを見極めることです。
我々獣医師が、治療を始めるうえで状況把握がしっかりできているかいないかでスタートの位置が違ってきて、命を助けられるか助けられないかの境目になることもあります。それともう一つ。普段の元気な時に、皮膚や歯茎の色や、心臓や動脈の拍動を把握しておいてください。また遊びながら肋骨や背骨と前肢、後肢の位 置関係を覚えておきましょう。
つけたしでもう一つ。先生がいない場合、診療してくれる病院を教えてもらっておいて下さい。非常事態の場合は往診を依頼するのではなく、設備の整った病院へつれていってください。人工呼吸器からカウターショックまで担いで往診して来る獣医はまずいませんので。往診では手遅れになることがあります。
●●●それではまず応急処置の総論から。
※危機的状態の応急処置の流れをアルファベットで示しています。
A:AirWayの確保 |
呼吸をしているかどうかを確かめ、していなければ口の中や喉まで見える範囲を確認し異物がないか確認します。もし何か異物があれば取り除いてやります。よだれなどの粘液質のものがあれば拭き取ってやります。 |
B:Breathの確保 |
呼吸していなければ人工呼吸してやります。 |
C:Circulationの確保 |
心臓が停止している場合は心臓マッサージして循環を確保します。 |
D:Drugの投与 |
本来は、止まっている心臓を動かすための薬物や体の中の状態を整えるための薬物の心臓内や肺への投与を意味するのですが、心臓病などで常備薬をもらっている場合、主治医に緊急時の使い方を聞いておいてください。
飲ませもらっている場合、主治医に緊急時の使い方を聞いておいてください。飲ませなくても、砕いて舌下にいれるだけで効果のある薬もあります。 |
E:心電図の判定 |
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F:除細動 |
Eより先は器具が必要になり獣医師でなければできませんので省略します。 |
AからCないしDまでは、ちょっと練習すればできるようになりますので、呼吸停止、心止の見分け方から、人工呼吸、心臓マッサージのやりかたについては主治医の先生にお願いして練習しておいてください。
生命の基本的な部分の、維持ができたなら次に、傷口の消毒や止血、包帯、副木、エリザベスカラーの装着によって現状より症状が進行しないようにします。これらの処置の中で猫に引っ掻かれたり、噛みつかれたりしないように注意してください。猫は、痛みや驚きのために我を忘れていますから、しっかり保定してから行ってください。飼い主さんも救急に飛び込むようなことにならないように。
最後に、移動です。緊急度に応じて自宅か動物病院へ移送します。
これらのことは一連の流れの中で行います。また必ず順番にやらなければならないものでもありません。
大出血しているのなら、なにをおいても止血が第一です。普段から頭の中でシュミレーションしておいてください。
●●●交通事故を例に応急処置の流れをみてみましょう。
まず動物を安全な場所に移動します。そして先程のA.B.Cを確認してください。
呼吸はしているが、ものすごく苦しそうな場合は、横隔膜が破けてヘルニアを起こしているかもしれません。歯茎の色を見ていただいていつも通りきれいなピンク色していればいいですが、青っぽくなっていればそれはチアノーゼをおこしています。直ちに動物病院へいってください。
途中で呼吸が止まるようならBを実行してください。問題なければ安静にして様子を観察して下さい。どこかに出血がないか、骨は折れていないかなど何か普段と違うことがないか観察してください。このときむやみやたらとさわらないでください。動物は、興奮状態ですからさわられるのをとてもいやがります。さわるのは必要最低限にしてください。
手足の骨折が確認できたなら、どんなに変な形になっていても元に戻そうとはしないで下さい。可能ならそのまま固定して下さい。固定が無理ならそのままキャリー等に入れて、動き回らないようにして、直ちに動物病院へいって下さい。単純に骨折だけなら一晩ぐらいの余裕はありますが、あの固い骨が折れるぐらいの強い衝撃を動物は受けたわけですから、内臓もダメージがあることが多いのでなるべく早く動物病院へつれていってあげて下さい。
手足に力が入らずだらりとしている場合は脊髄損傷の可能性があります。この場合キャリー等にいれてあまり動かないようにして直ちに病院につれていって下さい。脊椎損傷の場合、その程度にもよりますが処置は、交通事故から24時間が勝負になります。
意識障害やケイレンがある場合は、まず安静と保定です。もともとてんかん体質の場合は5分ほど様子を見ていれば落ち着いて意識も戻ることもあるかもしれませんが、そうでない場合は脳の損傷を疑います。ばたばた暴れるようなケイレンを起こしている場合には毛布等でくるんであげて、これ以上怪我をしないようにして下さい。そのときに動物の口の周りにあなたの手を持っていくのはさけて下さい。無意識に噛まれた場合に離してくれません。大変危険です。横たわったまま手足を規則的に歩くように動かしている(遊泳運動)場合は意識障害があります。これは止めようと思ってもとまりません。この場合も毛布等でくるんで下さい。どちらの場合も直ちに動物病院へ連れていってください。
交通事故でも、車の下に巻き込まれた場合には、排気管等との接触により火傷をすることがあります。火傷のが疑われたら患部をまず冷やして下さい。水道水をかけるのが一番いいのですが、動物がいやがりますので、タオルに水をひたして患部に当てて下さい。そのとき絶対にこすらないで下さい。
こすると皮膚が剥げてしまうことがあります。そしてすぐに動物病院へつれていって下さい。
どこをどう見ても、なんともない。こんな場合でも皮膚の色やお腹の膨れ具合を見て下さい。いつもと違って青黒くなっていれば皮下出血があります。広範囲におよぶ場合は、痛みがなくても動物病院へ行ってください。DICといって血液の凝固異常を併発する可能性があります。また皮下出血はないけれど、お腹がいつもに比べて膨れている場合は、内臓破裂に伴う服空内出血の可能性があります。この場合最初何の症状も無い場合がありますので注意して下さい。
何処にも異常がない場合でも、交通事故の場合は、事故から2~3日は安静にして様態をよく観察して下さい。食欲もあるし水もよく飲むしいい便もしているし・・・。あれおしっこは?なんてことがないようにして下さい。膀胱破裂だけの場合、症状が出てくるのはかなり後になります。気をつけて下さい。
交通事故を例に応急処置の流れをみてきましたが、それ以外の場合でも基本は同じです。
まず現状把握して、一つ一つの現象に対処して下さい。あせりは禁物です。
さあ動物のぬいぐるみを持って、主治医の所へ行きましょう。
そして人工呼吸や心臓マッサージのやりかた、そして安全な保定方法を教わって下さい。最初は変な顔されるかもしれませんが、あなたの熱意がわかればきっと一生懸命教えてくれるはずです。くれぐれも元気な動物を連れていかないように。
あなたと先生の手と顔に爪痕が残るだけですから。
●●●その他の事故
異物の飲み込み:
何を飲み込んだかによって違ってきますが、原則的には口の中に残っているものを除去した後に、強制的に吐かせます。吐かせ方は。3%過酸化水素水(オキシフル)を小さじ一杯飲ませるか、3gの食塩を飲ませます。5分待っても吐かない場合には、もう一度飲ませます。3回やっても吐かない場合や、吐いたものの中に飲み込んだものが出ていない場合には、直ちに動物病院へ連れていってください。吐かせることに危険が伴うもの、たとえば釣り針などの鋭利なものや、お便所掃除用の酸の強い洗剤などの場合は吐かせずに動物病院へ連れていってください。吐かせていいものかどうかは動物病院に連絡して確認してください。
一酸化炭素中毒:
まず換気して下さい。呼吸が停止していない場合は、新鮮な空気を吸わせることによって回復します。
ただし呼吸が弱かったり、意識障害がある場合には直ちに動物病院へ連れていってください。呼吸が停止している場合は、直ちに新鮮な空気のもとで人工呼吸をしながら動物病院へ連れていってください。
感電:
コタツのコードで遊んでいるうちに、エキサイトしすぎてガブリとやって感電することがあります。
コードを噛んだまま硬直したり、ケイレンしているときはコードをコンセントから抜いて電気を止めて下さい。コードを抜く前に猫にさわるとあなたが感電しますから 気をつけて下さい。そして心臓の動きと呼吸を確認して下さい。していない場合には心臓マッサージと人工呼吸をしながら動物病院へ連れていって下さい。自力でコードから離れた場合でも、口の中に火傷があるはずです。赤く腫れていたり、出血しているようなら動物病院へ連れていってください。
ケイレン:
一口でケイレンとっいても多種多様です。ここでは腎不全や肝不全等の既往症のないケイレンのことを指します。いわゆるてんかん発作です。猫がてんかん発作を起こしてもあわてないで下さい。よほどのことがない限り生命に危険はありません。発作が始まったら極力刺激しないようにして安静にして下さい。部屋を薄暗くして、音を出さないようにして下さい。5分もすれば収まるはずです。収まったら動物病院へ連絡して指示を仰いで下さい。