日本は、昔から台風・地震などの災害に見舞われてきました。
最近では、想定外と言われる規模の地震や津波、気候の変動による水害なども多発するようになり、それらに対する備えをより確かなものとしなければならなくなりました。
テレビやインターネットで、そうした災害の光景を目にすることも少なくありません。その映像を見ながら、私たちは何を考えるでしょうか。
もしも、自分が被災したら……。自分のこと、家族のこと、友人のこと。そして、大切なペットと暮らしている人は、きっと考えるはずです。『その時、うちのペットはどうなってしまうのだろう』
大きな災害が起きたとき、一番はじめにしなければならないことは、自分の身を自分で守るということです。もしあなたがペットの飼い主であるなら、自分の身はもちろんのこと、大切な家族の一員である動物をも守らなければなりません。
自分や家族が無事に避難できても、ペットを壊れた家に置いてきてしまったら、途中ではぐれてしまったら、危険な場所へ探しに、あるいは世話をしに行かなければならないかもしれません。
では、そんな大切な家族の一人でもあるペットとの避難は、どのようにすればよいのでしょうか。もしあなたがペットを飼っていなくても、避難した先で動物たちと一緒に過ごすということはどういうことなのでしょうか。
いつか必ず訪れる『その時』のために、今私たちができることに
はじめに
避難
ペットとの避難→自分で命を守る
災害が起きた時、ペットと一緒にどうやって避難をしたら良いか、どんな準備が必要でしょうか?
ハザードマップ(防災マップのことで逃げ方、逃げる場所)を普段から確認するとともに、親戚や友人宅などの外出先で災害に遭うことも考えておくとよいでしょう。
水害による浸水などから避難できるよう、近くにある高い建物もあわせて確認しておきましょう。
実際にその道のりを、お散歩などのときに確かめておけば、仮に災害が起きた時も慌てずに行動することができます。
避難場所
杉並区の避難所は区立の小中学校の震災救護所です。避難所には動物避難所がありますので、ここに避難します。
怪我をしたペット達の避難
もし飼っている動物が怪我や病気をした場合は負傷動物救護所(井草中学校、東田中学校、杉森中学校 高井戸第二小学校、杉並和泉学園)で応急処置をしてもらうことができます。
災害が起きて避難が必要な時は、落ち着いて避難バッグを持ち、ペットを連れて避難所に行きましょう。(これを同行避難と呼びます)。
家が無事なら?
発災後、慌てて避難をする前に、家が無事なら、まずはそこで過ごしてみましょう(これを在宅避難と呼びます)。
避難所での生活は、当然それまでのものとは違うため、人にもペットにも、知らず知らずのうちに負担になってしまうことがあります。
避難所での過ごし方
避難所では動物が好きな人ばかりではなく、中には苦手な人もいます。ペットはキャリーケースやケージに入れたり、リードにつないで他の避難者の迷惑にならないようにしましょう。
災害や避難は、人間だけでなく、動物達をも不安にさせます。中には怖がりな動物もいますので、可愛いからといって、むやみに手を出すと、思いがけない事故につながってしまうこともあります。動物と触れ合う際は、必ず飼い主に一言声をかけてからにしましょう。
避難所には、犬や猫以外の動物もたくさん集まります。ペットには首輪や鑑札、迷子札を必ずつけましょう。また、動物たちだけでなく、キャリーやケージにも、必ず飼い主の連絡先や動物の名前などを書いておきましょう。
避難所における生活は、色々な人や動物が一緒に暮らすため、ストレスで病気になったり、時には寄生虫がうつることもあります。常日頃からの狂犬病や寄生虫予防のためのワクチン注射等は、自分のペットはもちろん、他の動物を守ることにもなります。
不妊・去勢手術もしておけば、雌雄同士の思わぬトラブルも避けることができるでしょう。
避難所でのペットのお世話
大きな災害の後では、ペットはもちろん、自分自身の生活環境やリズムも大きく変わってしまいます。避難所では、人と動物は別々の場所で生活することになるため、いつものようにペットに目をかけてあげるということがしづらくなります。
だからといって、誰かがペットにご飯やお水を与えてくれるといったことはしてくれませんし、時にはそういったものがすっかり無くなっていれるかもしれません。
そのためにも、食べ物や水といった生きるために必要なものは、自分たちの分だけではなく、ペットのものも必ず用意しておく必要があります。
避難所に来ても、お水やごはんを忘れることなく与え、便や尿の片づけをしていつもケージの中を清潔に保ちましょう。
長い時間狭い空間にいることは、ペットはもちろん人間にとっても良くありません。ペットだけではなく、飼い主のストレスを減らすためにも、必ずペットを外に出してあげる機会を設けましょう。
避難所で気分が沈んでしまっている家族や友達がいれば、声をかけて、ペットと一緒にお散歩へ出かけるのもいいかもしれません。
もし他の動物のケージが汚れていたり、フードや水が与えられていないようだったら、必ず飼い主へ教えてあげましょう。
大きな災害が起きたとき、一番大切なことはみんなで協力して、それを乗り越えることなのです。
準備
しつけ
避難場所には動物を飼っていない人もたくさん集まります。飼い主は、他の避難者に迷惑をかけないためにも、フン・尿などの基本的なしつけを日頃からしておく必要があります。
犬には、ハウス、まて、ふせ、などの服従訓練、無駄吠えをさせないなどのしつけをおこなっておきましょう。
また、動物は環境が急に変化することをとても恐がります。ケージやキャリーバッグに馴れておくことが大切です。
飼い主以外の人とのふれ合いに慣れておくと、たくさんの人と動物が生活する避難所でも、お互いのストレスを減らすことができます。
しつけは他の避難者のためだけではなく動物自身のためにもなるのです。
備え
避難所に行くときはもちろん、在宅避難のときでも自分のもの、ペットのものはしっかりと準備しておきましょう。
新しく防災のための準備をすることが難しくても、日頃から使っているフードやペットシーツを多めに買うだけでも備蓄になります。
大きな災害が起きたときは、救援物資もすぐには届きませんし、ペットに必要な物資はさらに遅れる可能性もあります。
では、万が一に備えてどのような物を用意しておけばよいでしょうか。
◇移動ケージ
布製ではなく、他のケージと重ねられるものがよいでしょう
◇リード(引き綱)・首輪や胴輪
迷子札などで名前がわかるようにしておきましょう
犬の場合は鑑札と注射済票もつけておきます
◇ペットフードと水
最低でも、長期保存がきくものを5日分は用意しましょう
軽い食器や水入れなども一緒に入れておくとよいです
◇フンと尿などを処理するもの
ビニール袋、トイレットペーパー、ペットシーツ、猫用トイレ、トイレ砂など
◇薬
常用の薬は多めに手元に用意しておきましょう
ペットのお薬手帳には、『今与えているお薬の名前・成分』、もしかかっている病気があるならその『名前』も書いておきましょう
予防
鑑札よりマイクロチップ!?
地震や洪水など、大きな災害が起こると私たちはびっくりして慌ててしまいます。犬や猫たちも同じです。その場で逃げ出してしまったり、避難した先でも、余震や馴れない環境のせいで逃げてしまうこともあります。
そうなった時、私たち飼い主は、ペットを見つけることができるのでしょうか?
犬については「狂犬病予防法」という法律によって、生後3 ヶ月を過ぎた犬の飼い主は、狂犬病のワクチン接種をし、届出をし、鑑札を犬につけることが決められています。
鑑札があれば、確かにその番号をもとに、飼い主が誰で、どこに住んでいるかなどを保健所で調べることができます。
しかし、大きな災害が起きた直後だと慌てていて、首輪や鑑札をつけ忘れたり、逃げている間にとれてしまうこともあります。
また、猫については登録制度がないため、首輪や迷子札が外れてしまうと、飼い主へ至る手がかりがすっかりなくなってしまうおそれもあります。
万が一、飼っている犬や猫が、首輪や迷子札をつけないまま逃げ出してしまっても、元の飼い主のところへ帰れるようにするため、『マイクロチップ』というものがあります。
これは、直径2mm、長さ8 ~ 12mm の円筒形の電子標識器具で、それぞれに割り振られた15 桁の数字が飼い主の情報を記録するようになっています。
専用の読み取り機を使うことで、これを引き出すことができるのです。一度体内に埋め込めば、つけ忘れたり失くしてしまうことはありません。もちろんデータが書き換えられることもないので、コンピュータなどの回線が復旧すれば、すぐに飼い主を捜すことができます。
これは、犬や猫だけではなく、他の動物にも使うことができます。
災害や避難に関係なく普段から活用できるものなので、ペットを守るためにも是非付けるようにしましょう。
予防注射について
感染症とは、人から人へ、動物から動物へうつるもの、あるいは人と動物相互にうつるもの(これを人畜共通感染症といいます)があります。
避難所にはたくさんの人や動物が集まります。いつもと違う環境は、動物たちにもストレスを与え、中にはそのせいで抵抗力が弱まり病気になってしまうものもいます。しかし、そうした病気の中にはあらかじめワクチンを接種することで予防できるものがあります。
ただ、大きな災害は、家や学校だけでなく、物を運ぶための道路や線路をも破壊します。そうなると、水や食料はもちろん、ワクチンも届かない、あるいは届くまでに長い時間がかかるということがあるかもしれません。
ですから、常日頃から定期的にワクチンを接種しておけば、いざというときに、人も動物も病気から守ることができるのです。
では、ワクチンで予防できる感染症には、どのようなものがあるのでしょうか。
<感染症類>
1 狂犬病
狂犬病は、感染した犬などに噛まれて発症してしまうと、ほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。今でも世界では何万人もの人が狂犬病で亡くなっています。日本では、仮に狂犬病の動物が入ってきても、流行しないよう毎年1 回狂犬病の予防注射を必ずすることと法律で定められています。
2 レプトスピラ症
感染した動物の尿で汚染された水や土から感染する人獣共通感染症です。犬や猫、家畜、ネズミなどが原因となります。水害の後などに流行することが考えられます。
3 犬のケンネルコフ、猫のFVR(猫ウイルス性鼻気管炎) これは、人の風邪と同じような症状で、同じ部屋や近くにいるとうつってしまう感染症です。
4 その他
犬では、パルボウイルス感染症、コロナウイルス感染症は下痢や嘔吐で死亡することもあります。他にイヌジステンパー、伝染性肝炎などがあります。
猫にもパルボウイルス感染症、カリシウイルス感染症、クラミジア感染症、喧嘩などの傷からうつる猫エイズウイルス感染症、猫ウイルス性白血病などがあります。
これらの病気は、すべてワクチン接種で予防できます。毎年1回ワクチン注射をしましょう。
<寄生虫類>
1 ノミ、ダニ
犬や猫などの体表面についたノミ、ダニは人にもうつります。
吸血し、痒みを起こすだけでなく、死亡率の高い感染症の原因になることもあります。普段から駆除、予防しておきましょう。滴下(スポット)剤や飲み薬があります。
2 フィラリア症
犬フィラリア症は蚊によってうつります。フィラリアが寄生している犬が原因となります。人にもうつることがあります。これも、滴下剤、飲み薬、注射などで予防できます。
あとがき
「備えあれば憂いなし」
日頃から準備をしておけば、いざという時に何の心配もないということわざです。
災害に対しては、いくら備えても完璧ということはありませんが、備えていればそれはきっとあなたを助けてくれるものとなるはずです。物だけではなく、知識を増やすこともまた大切な備えの一つだと私たちは考えます。この冊子が、そんな備えの一助になれば、と思います。
編集
公益社団法人東京都獣医師会杉並支部
イラスト制作
女子美術大学 学生作品
発行・監修
杉並保健所生活衛生課 (〒167-0051)杉並区荻窪5-20―1 (3391-1991)
平成30年11月発行