はじめに

はじめに私たち人以外の動物が、すぐそばで暮らしているのはよいことです。
小さな虫、メダカ、鳥、うさぎ、犬、猫・・・。
私たちとともに暮らすこの動物たちの一生はどのようなものでしょうか。私たちは何をしてあげられるのでしょうか。そして、私たちとは全く違う動物たちは、私たちに何を教えてくれるのでしょうか。
具体的に考えると、その動物はどこから来たのか、どうやって来たのか、どのように過ごしたら幸せなのか。病気にかからないために、飼い主としてできることはなんでしょうか。そして歳をとったらどうなっていくのでしょうか。

私たちはその動物にとって家族であり、友達であり、ときには先生であるかもしれません。やって来たその子には、私たちしかいないのです。今回は、それらの動物たちの中でも、一番社会と接する機会の多い犬を中心に、考えてみたいと思います。

新しい家族

動物を飼うということ

動物を飼うというのはどういうことでしょう。家具を買うなどのように、単純に家の中に物が増えるということではありません。
動物は私たちと同じように生きていて、自然の中では自分で自分の命を守っています。しかし、飼われている動物は自分で餌を準備することもできませんし、自分のいる場所やトイレの掃除をすることもできません。代わりに、私たちが愛情と責任をもってずっと世話をしなくてはいけません。
一人では大変なときもあるでしょうから、家族みんなで協力することも必要です。居心地の良い環境では動物も過ごしやすく、その場所を用意している私たちに好意をもつようになります。
このような関係を続けていけば、言葉を交わせなくても気持ちが通じるようになり、一緒にいることでお互いに安らぎを感じられるようになります。そう考えると動物を飼うということは、新しい家族を迎えることとも言えますね。

動物を迎える前に

動物を迎える前に動物を飼う前にできるだけその動物のことを知っておかなければなりません。
まず、どのような場所に住んでいるのか。その場所と同じような場所を用意できますか?それは、広さや土、草、水など、自然にいたときの状態のことで、全く同じでなくても、動物が充分生活できる状態であれば構いません。
次に、いつもどのような物を食べているか、また、どのように生活しているのか。これらを知らないと、せっかく家族になった動物が病気になってしまうかもしれません。
最後に、鳴き声が大きい可能性がある、人や家具を傷つけてしまう可能性があるということ。これらについても気を付けておかないと、飼い始めてから後悔することになってしまいます。

動物を見て、ただかわいいから、かわいそうだからという理由だけで飼うのは良くないことです。動物を大切に思う気持ちはとても良いことですが、飼う上ではその命に責任をもたなくてはなりません。途中で飼うのを嫌になったからといって、外に放したりすることや、世話をしなくなるようなことは絶対にしてはいけません。
また、飼い主が長い間、強く我慢し続けていると愛情をもてなくなります。そうなると飼い主も動物も両方不幸になってしまいます。飼う前に家族みんなで相談して、自分たちの生活の中で飼う余裕があるかを必ず確認して下さい。

動物を迎えるには

では、動物を飼いたいと思ったときにどのように出会うことができるでしょうか。
以前は「○○ちゃんの家で赤ちゃんが産まれたからもらってきた」や「道端に捨てられていてかわいそうだから連れて帰ってきた」というような話をよく聞きました。最近はこのような話はあまり聞かれなくなり、ほとんどがペットショップやブリーダーと呼よばれる専門家かから購入されています。
その場合はある程度人との生活には慣れていますが、動物にもそれまで過ごした生活のリズムがあります。寝起きの時間や落ち着ける場所など生活に大きな変化があると体調を崩すことがあります。今まで何時から何時まで起きているのか、どのような物を食べているのか、どのように接してきたかをよく聞いて確認しましょう。最初はなるべく同じように生活させるように心掛け、新しい環境による変化に少しずつ慣れさせるようにしてください。

他にはどのような迎え方があるのでしょうか。東京都には動物愛護相談センターという施設があります。ここでは、動物を飼うことに関する様々な疑問や問題を解決するために、指導をしたり、迷子などで飼い主からはぐれてしまった、又は、残念ながら飼い主がいなくなってしまった犬や猫を一時的に保護したりといった仕事を行っています。飼い主が見付からない場合は新しい飼い主を探す活動もしています。
新しい飼い主になることを希望する場合は、特定の条件を満たした上で講習を必ず受けなければなりません。これは、せっかく見付かった新しい飼い主に最後まで大切に飼われて欲しいためです。講習などは日程が決まっているため、必ず前もって連絡をしてください。
また、災害が起き、飼い主と離れてしまった動物や、飼えなくなってしまった動物の新しい飼い主を探す地域ごとの団体もあります。他にもお年寄りなど特別な事情で飼えなくなった動物の新しい飼い主を探す団体や、子猫などの新しい飼い主を探すボランティアも大勢います。それぞれの場合もよく状態を確認し、お互いに飼う上で問題がなければ命を救う運動に協力をお願いします。

犬猫の病気予防

動物を迎えたら、健康を管理することも飼い主の大切な仕事です。その動物に合った食事を与えたり、環境を清潔に整えたり、一緒に遊んだりして、元気に生活を送れるようにしてあげることが大切です。そして、病気にならないように予防をしてあげる必要があります。

狂犬病予防:犬

犬を飼い始めたら30日以内に飼い犬の登録をして、毎年、狂犬病予防注射を受けさせることが法律で義務付けられています。
狂犬病は、人をはじめ全ての哺乳類に感染する人と動物の共通感染症です。主に狂犬病ウイルスを持つ犬にかまれることで感染し、発病した場合は、治療法もなく亡くなってしまう非常に恐ろしい病気です。
狂犬病予防法が制定される前の日本では、狂犬病で苦しむ人や犬がたくさんいましたが、今は日本で狂犬病の発生はありません。
しかし、今でも世界中で、毎年5万人以上の人々が狂犬病で亡くなっています。今の社会は外国との交流が盛んなため、いつまた狂犬病が日本に入ってきてもおかしくはありません。そのために、保健所が犬の飼育頭数を把握して、犬に狂犬病予防注射をしておくことで、狂犬病が日本中に広がることを予防しているのです。

伝染病予防:犬・猫

犬や猫も人が風邪を引くのと同じように、簡単に近くにいる動物からうつされる病気があります。中には命に関わる恐ろしいウイルスや細菌の感染症もあります。また、動物から人へうつるものもありますので注意が必要です。人にはうつらなくても、同じ動物同士でうつってしまう感染症は予防注射をすることで防ぐことができます。定期的なワクチン接種を心掛けましょう。

フィラリア予防:犬

犬の代表的な寄生虫の感染症として犬糸状虫症(フィラリア症)があります。犬が蚊に刺されたときに、フィラリアという寄生虫を犬の血液の中に残していきます。
このフィラリアは心臓や血管に寄生し、放っておくと、犬が亡くなってしまう可能性のある恐ろしい病気ですが、予防薬を使うことで100%防ぐことができます。

外部寄生虫(ノミ・ダニ)予防:犬・猫

ノミやダニなど、犬や猫の体の外側に寄生する虫もいます。これは、人にもうつってとてもかゆかったり、熱が出たり、ときには人間が亡くなってしまう病気も一緒にうつることもあるので定期的に予防や検査をしましょう。

内部寄生虫(おなかの虫)予防

そのほかにも回虫などお腹の中にいる寄生虫もいます。主にフンや地面から感染します。定期的な予防と排泄物の適切な取り扱いを心掛けましょう。特に、子犬はお母さんから感染してしまっていることもあるので、飼い始めのときは動物病院の先生に教えてもらって定期的に便検査をしてあげましょう。

台湾での狂犬病発生

台湾は、日本、オーストラリア、ハワイなどとなら並び、狂犬病が長期に渡り発生していない世界でも数少ない地域の一つでした。しかし、平成25年7月に野生のイタチアナグマが狂犬病に感染していたことが分かり、台湾は狂犬病発生国となりました。また、同年9月には狂犬病に感染したイタチアナグマにかまれた犬が狂犬病を発症しました。
日本でもいつ発生するか分かりません。犬の飼い主のみなさんは、狂犬病予防法に基づく登録・予防注射をしましょう。

楽しく暮らすために

しつけの大切さ

犬と暮らすとき、健康に気を付けることと同じくらい大切なことがあります。それは「しつけ」です。しつけとは、飼い主と犬が家庭の中だけでなく、社会で楽しく安全に生活していくための大切な「教え」です。
その前に、動物を迎え入れたとき、一番初めに何をしますか?
名前をつけてあげると思います。名前をつけることでより愛情が湧きますし、動物も自分の名前を覚えてちゃんと反応してくれるようになります。名前を覚えてくれれば、何かあったときに飼い主が呼べば戻ってくることができます。散歩中に首輪が抜けてしまったり、びっくりして逃げ出してしまったり、生活しているといろいろなことが起こりますが、そのようなときに大好きな飼い主が呼ぶ名前と声で落ち着きを取り戻し、ちゃんと帰ってくることができるのです。名前を呼んで自分のところに来てくれる、「呼び戻し」ができないと大切な家族を失ってしまう悲しい出来事が起こってしまうかもしれませんので、呼び戻しはとても大切なことです。
リードをつけてお散歩に行くことが少ない猫でも、怖いことがあって部屋のどこかに隠れてしまったときや、外に行ってしまったとき、病院に連れて行ったときなど名前を呼びながら話しかけることで安心してくれるのです。

しつけを行う際に、動物のお部屋を用意してあげることも大切です。皆さんも成長するにつれて自分の場所が欲しくなると思います。遊び疲れたとき、叱られてしまって一人になりたいとき、知らない人が来てドキドキしてしまうとき、安心していられる場所が動物にも必要です。
このお部屋はサークルという囲われた場所だけではなく、移動もできるクレートというものの両方に入るような練習をしておくと、大きな災害が起こって避難しなければならなくなったときや、お出かけするとき、病院へ行くときなどに、いつでもお部屋ごと移動することができるので動物は安心できるのです。

家の中にはご両親が大切にしている家具や、動物が食べてはいけないものなどたくさんのものがあります。犬は特に口に何かをくわえたりしながら遊ぶことが多いので、傷をつけてしまったりすることも多くなります。また、遊んでいるうちに間違って飲み込こんでしまうような事故も起こします。
このようなことを避けるために、犬がやって良いこと、やってはいけないことを家族みんなで決めましょう。例えば、人間が食事をするテーブルには上がってはいけない、家具や人をかんではいけない、などです。人によって良いことと悪いことが違うのではなく、みんないつも同じように教えることが大切です。「家族の手はかんでも良いけど家族以外の人はダメ」ということは分かりにくいことです。「ダメ」なことをはっきりさせておくことが大切です。やって良いことはたくさん増えていってほしいものです。また、家から外に出るときなどは人が先に出て、犬は後からというように教えておけば、急に道路に飛び出して自転車などにぶつかってしまう事故も防げます。

外に出かける前に

犬はとても活動的な動物ですので、たくさん一緒に遊びましょう。外に出ていろいろな人や犬に会って友達をたくさん作ってあげてください。
外に出ることが増えたら、飼い主は排泄に気を付けてあげてください。道の真ん中で突然止まって尿をするのは危ないですし、道路を汚すことになります。できるだけ端に寄って排尿後はたっぷりの水で流してください。誰かの家の玄関前でさせてはいけません。犬はとても鼻の良い動物です。一度誰かが排尿すると次々と排尿する犬が寄ってくるようになって、ついには犬のトイレになってしまいます。自分の家の入り口が犬のトイレでは嫌ですよね?
便もきちんと持ち帰るようにしないといけません。柔らかい便のときには道路についてしまうかもしれませんが、これもちゃんと洗い流しましょう。犬と一緒に出かけるときには排泄物を洗い流すためのたっぷりのお水と、便を持ち帰るものを持っていなければいけません。
外出中にはいろいろな人とすれ違いますね。でもみんなが犬を好きなわけではありません。怖くて近づけない人もいるかもしれません。他の人に犬が飛びついてしまわないよう、吠えかかってしまわないように普段から教えておくことが大切です。飼い主が「ダメ」と言ったらちゃんと従うようにしつけておくことが社会でうまく生活するためには絶対必要です。

猫の場合には犬のように一緒に行動することが少ないかもしれません。最近は室内だけで猫を飼うことが多いと思います。そのおかげで事故や怪我が減って寿命も延びていますが、外に出したくない場合には、外はダメということを飼い始めてすぐに教えましょう。一度も外に出たことがなければ室内だけでも十分楽しんで生活してくれるのが猫なのです。
本当は外で自由に生活してもらいたいとも思いますが、杉並区のように車の多い地域では事故にあう可能性が増えてしまうので、室内で安全に暮らしてもらいたいと思います。

動物の老いと向き合う

動物の老いと向き合う杉並区では、毎年獣医師会が、15歳以上の犬と猫に表彰状を渡しています。昨年は犬388頭(最高齢19才)、猫478頭(最高齢24才)でした。
実際には、もっと多くの高齢の犬、猫たちが私たちのそばで暮らしていると考えられます。
犬や猫は、人間と比べて早く歳をとります。歳をとると重い病気ではなくても、前にできたことができなくなります。高い所や階段が苦手になって登れなくなったり、駆け回ることができなくなったりします。人のようにシワは見えませんが、よく見ると以前に比べて、毛が細くなったり、白くなったり、近くで見ている飼い主にはよく分かります。ときには、目やにが出たり、口が臭くなったり、おしっこを決められた場所でできなくなったりする場合もあります。

動物たちは、歳をとったことや見た目が変わったことをどのように感じているのでしょうか。おそらく、毛が白くなっても、目が見にくくなっても、耳が遠くなっても、そのこと自体を悲しんだり、将来を思って考え込んだりしないはずです。それでも、飼い主のそばで今までのような生活をできるだけしたいと感じていると思います。そのようなとき、私たちはそばでどうやって支えてあげたら良いのでしょうか。何ができるのでしょうか。
歩くのが辛そうだったり、目が見えにくそうだったり、歯が悪くなって食べにくそうだったりした場合は、動物病院に相談してください。健康なときも、予防や健康診断などで動物病院に行っていたら、より相談しやすいと思います。幸いにも、杉並区には多くの動物病院があります。また、夜間に診察してくれるところや、目の病気を専門的に診てくれるところ、リハビリテーション(病気の治療だけではなく、飼い主と穏やかに生活するためのアドバイスなどをする)を行う動物病院もあります。

そして、動物病院でできること、家でできることを考えてください。人と同じような治療が有効なこともあれば、同じようにいかないこともあります。ご飯を食べやすくしたり、段差をなくして歩きやすいようにしたり、家で楽になるように工夫できることがあります。私たちの犬や猫が、なるべく痛みや苦しみを感じず、穏やかに飼い主のそばで歳をとるができるよう、よく考えて決めてあげられるのは、ずっとそばで見てきた飼い主なのです。
悲しいことですが、私たちは必ずやってくる動物の死と向き合わなければなりません。それでも、私たちがきちんと動物の老いや病気と向き合って、動物の身になって考え、最後を迎 えさせてあげられたら、その悲しみはやがて癒えて、楽しかった思い出の方が大きくなります。そのとき、動物と一緒に過ごした時間、たくさんの出来事が自分の財産になるはずです。
それは、学校で勉強したり、友達と遊んだり、家族で旅行に行ったりした思い出と同じくらいに、かけがえのない大切なものになるでしょう。

あとがき

動物と暮らすこと。昔から人の生活の中には普通にあったこのことは変わらず続いていますが、時代と共に暮らし方が変わってきました。周りの環境も変わってきました。
今回は改めて、暮らすことをテーマに動物の一生の中で大切なことを取り上げました。子どもも大人もみんなが楽しく安全に、また、動物が苦手な人からも嫌がられないように皆さんと皆さんの動物たちが充実した生活を送れるよう願っています。

編集
公益社団法人東京都獣医師会杉並支部
イラスト制作
女子美術大学 学生作品
発行・監修
杉並保健所生活衛生課 (〒167-0051)杉並区荻窪5-20―1 (3391-1991)
平成29年11月発行