はじめに

はじめに はじめに

動物を飼育するにあたって、ずっと健康でいてほしいですよね。
でも、動物もやがて歳をとり、人よりも早く身体はおとろえていきます。飼育されている動物は、人間が食餌を与えたり、病気やけがをしたときは飼い主が動物病院に連れて行ったりしなければなりません。「ひとり」では生きていけないのです。では動物の健康を守り、健やかに過ごさせてあげるには、どのように飼育すればよいのでしょうか。大切なことはたっぷりの「愛情」と、「予防医学」「知るワクチン」です。
今回は犬のことを中心に日々心がけてほしいこと、覚えておいてほしいことをお話ししますが、どの動物を飼うにしても基本は同じです。

愛情

親にとって子どもはかけがえのない存在です。そのため親は子どもに無償の愛を注ぎます。子どもにとってその温かさは何ものにも代えられない心地よさのはずです。親は時には厳しい態度をとることもありますが、それは愛情があってのことです。
動物に対しても同様に深い愛情をもって接すれば、動物はあなたのそばを心地よい場所と感じるようになり、心を落ち着かせるでしょう。
あなたが心をこめて飼育すれば、動物と気持ちが通じ、動物が何をしてほしいかきっとわかるようになります。そうなれば、いろいろな世話を自然としたくなるでしょうし、体調のちょっとした変化にも気付きやすくなるでしょう。

予防医学・知るワクチン

「予防医学」や「知るワクチン」と言う言葉を知っていますか。
「予防医学」とは、病気になる前にその原因を取り除いたりして、病気にならないようにすることです。例えば感染症のワクチン接種や、犬フィラリア症の予防などをさします。また、日々の歯磨きや散歩などによる適度な運動も、それにあたります。
「知るワクチン」とは、病気やケガ、衛生などに対する正しい知識をもつことです。正しい知識があれば、病気などを未然に防ぐこともできますし、もし病気になってしまったとしても、重病になる前に見つけられるようにもなります。

日頃の健康管理

しつけ

しつけ「しつけ」は、決して動物を自分の思いのままに動かすためのものではなく、動物とコミュニケーションをとるための手段のひとつです。より良いコミュニケーションを取ることができれば、ますますお互いのことが好きになり、動物もより健康でいられます。
もしも「しつけ」ができていなければ、散歩中に急に走り出し、車にぶつかってケガをしてしまうかもしれませんし、拾い食いをして病気になってしまうかもしれません。また、ブラシを持つと咬みつくようになったらブラッシングができなくて、毛がからまり皮膚病になるかもしれません。
「しつけ」がきちんとできていれば、気になることが見つかり、いざ動物病院に連れて行かなければならなくなったときでも、スムースに診療を受けることができます。
「しつけ」の基本は、その動作などを「大好きなこと」にすることです。あなたも大好きなことは自分からするでしょうし、逆にきらいなこと、いやなことはやりたくないですよね。動物も同じです。あなたや他の人間と触れあったり、いっしょに遊んだりすることが大好きになれば、動物は進んでするようになるはずです。では「大好きなこと」にするにはどうすればよいでしょう。
それは「ほめる」こと(「よしよし」と声をかけながらなでる・好きなおもちゃや食べ物を与えるなど)です。少しでもうまくできたらほめてあげましょう。例えば「マテ」を教えるときは、犬が動く前にほめましょう。それを繰り返せば、犬は「マテ」と聞こえた後に動かなければ、『大好きなあなたがほめてくれるから、動かないようにしよう。』『大好きなあなたが喜んでくれるから、動かずにいよう。』と思うようになります。少しでも「マテ」ができるようになったら、少しずつその時間を長くしていきます。このように、しつけの時間は大好きな飼い主との楽しい時間となるように心掛けてください。

ワクチン

ワクチン狂犬病ワクチンは、法律で必ず毎年接種しなければならないと定められています。その他のワクチンも、病気予防のために毎年接種しましょう。特に歳をとると体の抵抗力が弱くなるので、より病気にかかりやすくなります。そのため老齢の動物に対するワクチン接種はより重要です。その際に行う動物病院での定期的な健康診断も、とても大切なものです。

普段の世話

毎日の世話を通して健康管理を行いましょう。その主なものを表にまとめました。他にも何かあるか、あなたも考えてみてください。普段から動物の様子をよく見て、少しでも変わった様子があれば、動物病院に相談しましょう。

健康管理の注意点
散 歩 歩き方に異常はないか。
最後までよく歩くか。
食餌・水 食べ方が普段と変わらないか。
年齢や体質に合った食餌を与えているか。
新鮮な水がきれいな器でいつでも飲めているか。
体 表 かゆがっていないか。
フケが多くないか。
ノミの糞は付いていないか。
イボやしこりはないか。
目は輝いているか。
目ヤニや涙は出ていないか。
目が白くなったり、赤くなったりしていないか。
舌や歯肉の色は正常なピンク色か。
歯石は付いていないか、口臭はないか。
歯磨きをしても痛がらないか。
かゆがっていないか。
赤くなっていないか。
汚れがついていないか。
臭くないか。
足 先 肉球は傷ついていないか。
指の間は赤くなっていないか。
爪は伸びすぎていないか。
糞・尿 糞の色や臭い、固さは普段と変わらないか。
糞の中に異物が混ざっていないか。
尿の量や回数がいつもと変わらないか。
その他 咳やくしゃみが出ていないか。
いびきをかかないか。

食餌

食餌食餌は健康を維持するのにかかせないものです。動物の種類によって必要な栄養バランスが異なります。ヒトはイヌの食餌を食べませんし、イヌにヒトの食べ物を与えることも良くないことです。例えば、イヌに必要な塩分は、ヒトよりかなり少なくて十分です。小型犬がハムを1枚食べると、あなたがハムを30枚以上食べるのと同じ位の塩分をとることになります。これでは塩分の取りすぎで病気になってしまうかもしれないのもわかるでしょう。
これ以外にも、ヒトが食べる物で動物の種類によって与えてはいけない物や、注意が必要なものがたくさんあります。イヌを例にその一部を表にまとめました。他にも家の中には、電池や漂白剤など中毒・炎症をおこすものや、輪ゴムやつまようじなど危険なものがたくさんありますし、屋外ではアジサイ・アヤメやクモ・ヒキガエルなどの動植物にも気をつけなければなりません。

イヌに与えてはいけない食べ物など
タマネギ・長ネギや
ニラ・ニンニクなど
イヌにとって有毒な成分(血液成分を破壊する)が含まれている。熱に強く水にも溶けやすいので、ハンバーグやすき焼きなどの加工品も与えてはいけない。
生卵 皮膚炎や成長不良をおこす。
生の魚介類・甲殻類など 下痢や嘔吐をしたり、のどにささったりする。
たくさん食べると下痢や嘔吐をする。
毎日食べるとミネラルのバランスがくずれる。鳥や魚の骨はのどや腸などにささって危険。
香辛料 肝臓病になる。
チョコレート 下痢・嘔吐・発熱・けいれんを起こす。
チューイングガム 少量でも嘔吐することがある。肝臓病になる。
ブドウ・干しブドウ 腎臓病になる。特にブドウの皮は与えてはいけない。
ケーキ 色々なものが含まれており下痢や中毒を起こすことが多い。
牛乳 下痢を起こす。肥満の原因になる。
お茶・コーヒー 心臓や呼吸がおかしくなる。
かぜ薬 肝臓病や貧血になる

ヒトが食べておいしいと思うものは、動物も同様においしいと感じる場合も多くあります。しかし身の回りには動物が食べてはいけないものがたくさんありますから、私たちが十分注意してあげなくてはいけません。

歳をとったら

体の変化

体の変化子犬は共に遊びながら成長し、人間より早く歳をとります。
犬からしてみれば、人間はなんて成長が遅いのだろうと思うかもしれません。
歳をとると好奇心も行動力も体力も落ちていきます。そのかわり、長い年月を共にすることにより心の絆が強くなり、言葉や気持ちが通じるようになります。
私たちはそんな動物と少しでも長く一緒にいたい、少しでも健やかに過ごしてほしいと思うことでしょう。小さいころからの生活習慣も重要ですが、歳をとると今まで平気だったことが負担になることも多くあります。例えば、ずっと屋外で飼育して病気ひとつしなかった動物でも、暑さ寒さや雨風が辛くなります。また、少し変わったものを食べるだけで体調をくずしやすくなったりもします。歳をとってからは体力が落ちているので治療が難しく、治るのに時間がかかったり、慢性病になってしまったりします。したがって、若い頃より注意深く世話をしてあげることが大切です。

看護と介助

正しい飼育をしても、ずっと元気で健やかに過ごせるとは限りません。一見若い時と変わらないように見えても、確実に衰えははじまります。高齢になれば、看護や介助が必要になることもあります。動物の気持ちを察しながら、やさしい気配りと思いやりで接しましょう。

高齢動物との接し方

動物は体調の変化を言葉に出して教えてはくれませんから、人が気付いてあげなければなりません。若い頃と違って歳をとると次のような変化が表れやすいですから、世話の仕方にも気を配りましょう。
動作が鈍くなったり、寝ている時間が増えたりする
食欲が少なくなったり、食べているのにやせてきたりする
水の飲み方が多くなったり、少なくなったりする
排便排尿のしつけがうまくできなくなる
環境や気温の変化で体調をくずしやすくなる
毛玉ができたり、毛ヅヤが悪くなったりする
歯が抜けたり、口や目の周りが汚れたりする
他にも様々な症状が出てくることがあります。重い病気にさせないよう、早く変化に気付けるよう、動物病院での定期的な健康診断もかかさないようにしましょう。

看護や介護が必要な高齢動物の注意点

家族のそばに置き、いつでも見てあげることができるようにする
起きている時はまめに声をかけたり体にふれたりする
体や寝床を清潔にして快適な温度を保つ
体調に合った食餌を与える
食餌やトイレの手助けをする
体力の低下を防ぐため適度な運動や日光浴をさせる
体が動かしにくいようなら定期的に寝返りを行い床ずれを防ぐ
分からないことや不安な事があれば動物病院に相談する
以上のことをこころがけ、家族みんなで世話する事が大切です。

【参考】犬・猫と人間の年齢換算表
犬・猫 人 間 犬・猫 人 間
1ヶ月 1歳 8年 48歳
2ヶ月 3歳 9年 52歳
3ヶ月 5歳 10年 56歳
6ヶ月 9歳 11年 61歳
9ヶ月 13歳 12年 66歳
1年 17歳 13年 71歳
1年半 20歳 14年 76歳
2年 23歳 15年 81歳
3年 28歳 16年 86歳
4年 32歳 17年 91歳
5年 36歳 18年 96歳
6年 40歳 19年 101歳
7年 44歳 20年 106歳

※大型犬は一般的に早く歳をとります。また環境によっても変わりますので、参考程度に考えてください。

おわりに

今回は、昨年の『ペットを飼うにあたって』の続きとして、飼っていく上での注意点などについてお話ししました。
お話の中で、たくさんの愛情を注ぐことの大切さや、歳をとったら介助が必要なことなど、まるで人間と一緒だと思うようなこともたくさんありました。
しかし一方では、人間は食べてもいいけど動物が食べてはいけないものがあるとか、病気などは人間が気付いたり予防したりしてあげなければいけないなど、人間とは違うところもたくさんありました。
動物を飼っていく上で大切なことは、動物と人間で、同じように考えていいところと、いけないところがあることをきちんと知ることです。その上で、家族の一員として十分な愛情をもって接するということです。
正しい知識をもって正しく接すれば、動物との生活はとても楽しいものとなります。この動物通信が、動物との生活をより豊かにするために、少しでもお役にたてれば嬉しく思います。

杉並区獣医師会では、毎年15歳以上の動物達とその飼い主を表彰する、「高齢動物表彰」を行っています。平成24年の最高齢は、猫で24歳、犬で20歳でした。

夜間の動物診療について

夜間診療の当番病院を知るには

体の変化方法1

公益社団法人東京都獣医師会ホームページにて当日の午後6時から11時までの間、当番病院をお知らせしていますので、最寄りの病院に連絡してください。
(ホームページアドレス:http://www.tvma.or.jp

方法2

当日午後7時から11時の間に下記の夜間診療専用電話に電話してください。代表の当番病院に電話が転送されますので、住所や状況を伝え、最寄りの当番病院を紹介してもらってください。

夜間診療専用電話:03-3405-0621

※夜間ですのでお間違えのないようにご注意ください。

あとがき

家族の一員として迎えた動物は、この上ない心の安らぎを与えてくれるでしょう。でも人がしっかり見守り、支え続けてあげなければ、動物は健康には過ごせません。
私達がしてあげられることは、最後の1日まで穏やかに過ごせるよう、いたわりと愛情をもって接することです。長年一緒に暮らしながら癒してくれる動物と共に、幸せに過ごしていただけることを願っています。

編集
公益社団法人東京都獣医師会杉並支部
イラスト制作
女子美術大学 学生作品
発行・監修
杉並保健所生活衛生課 (〒167-0051)杉並区荻窪5-20―1 (3391-1991)
平成25年2月発行